日本で、サラノキの花を見ることができるのは唯一……わが滋賀、と言っても大津ではなく、草津市立水生植物公園「みずの森」だけです。かつて禅僧栄西が、釈迦入滅のときその死を悼み飾ったという聖木のサラノキを抱えるようにして持ち帰った。その成長を俟(ま)ったが、弟子達は熱帯植物を枯らすほかなく絶望的な自責に陥った(に違いない)。
お釈迦さまが亡くなられたときを描く 涅槃図・沙羅の木 (京都・東福寺の「涅槃図」より)
「平家物語」の有名な冒頭「祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす<」の「娑羅双樹」は日本原産の「ナツツバキ」がイメージされていたことでしょう。サラノキとナツツバキには共通点があります。花は白色。ともに一日花(一日で散る)。信じがたいかも知れないが、自然の中では、二人とも40メートルを越えようかという高木です。わずかの知識で、見たくてならない見たことのない花をナツツバキに仮託したのでしょう。
これは、京都花園の法金剛院のナツツバキです。