ワビスケ椿と牧野富太郎『植物学雑誌』巻24(東京植物学会1910年)

ワビスケ椿と牧野富太郎『植物学雑誌』巻24(東京植物学会1910年)

和邇図書館で『最新椿百科』(横井茂著 淡交社刊2022年3月初版)を借りてきました。(表紙)
本書は、図鑑ページとあわせて、植物学、歴史、栽培・育種などについても紹介し、ツバキを総合的に知ることを目的とする入門書として編集した。と本書凡例に記載されていますが、かなり専門的な内容も含まれています。

第1章植物としてのツバキ1.ツバキ分類とツバキ属では、原種ツバキの解説が続き、最後に「ワビスケ系」の項の記載があります。(以下原文のまま転載)

ワビスケ系の諸品種は原種ではないが、日本のツバキ界では常に注目されてきた特異な栽培品種群である。
数多くの栽培品種のなかで、ワビスケ系を科学的な視点で初めて研究したのが牧野富太郎で、1910年に子房の有毛性に着目してワビスケ系をトウツバキ(牧野は当時Theareticulata(Lindley)Kochsを正名として引用)の種内分類群と考えた。トウツバキの変種は、現タロウカジャ(太郎冠者〈var.rosea〉、牧野はスキヤ[数寄屋]とし、北村四郎は京都ではウラク[有楽]と呼ぶとしている)、ハツカリ(初雁〈var.albo-rosea〉)、シロワビスケ(白侘助〈var.wabiske〉、牧野はワビスケとした)、ベニワビスケ(紅侘助〈var.campanulat〉)とした。さらにベニワビスケの品種に、シベナシワビスケ(蕊無侘助〈f.subvidua〉、牧野はこれをモモイロワビスケとした)、コチョウワビスケ(胡蝶侘助〈f.bicolor〉)を当てた。以上のほとんどは、伊藤小右衛門らの『椿花集』(1879年)に記載されている。

1952年、北村四郎はシロワビスケをC.wabiske(Makino)Kitamura、タロウカジャをC.uraku Kitamuraとした。1966年、津山尚は、北村のシロワビスケを基本種とする説を支持し、タロウカジャなどを変種に組み替えている。江戸時代中期から栽培されてきた現在の「数寄屋」は、牧野がワビスケ系に取り上げなかった。(中略)
さらに園芸文化的な面からいえば、植物学的な特徴とは別にワビスケ系のような一重猪口咲きの姿に似る花形のツバキを「侘助椿」と呼んでいるのである。
ワビスケに関する科学的な研究では、宮島郁夫らによるRAPD法を用いた「日本各地に現存するツバキ“有楽”古木の遺伝的同一性」(2001年)、また田中孝幸らの比較形態による「ワビスケツバキ Camellia wabiskeの起源に関する研究」が注目される。(後略)

※『植物学雑誌』巻24(1910年)に、牧野自筆の見事なハツカリの図と、シロワビスケ、ベニワビスケ、シベナシワビスケ、コチョウワビスケ、タロウカジャの挿絵があります。この挿絵をベースにぬり絵を制作してみました。『最新椿百科』に掲載されたトウツバキの図2枚と共にお楽しみください。(太郎冠者)